農業系ライターのブログ

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「カワサキ・キッド」

図書館でたまたま見つけた東山紀之さんの「カワサキ・キッド」。普段は手に取ろうとも思わないタレント本だが「反ヘイト本だった」というブログ記事がネットで話題になっていたことを思い出し、借りて読んでみた。

 

川﨑の桜本というコリアンタウンの経済的に恵まれない家庭で育った東山さんの幼い頃から今に至る自叙伝だが、私生活を公にしないジャニーズ事務所のタレントが淡々と、ときにユーモアを交えながら、しかし赤裸々に過去を語っているのは興味深かった。随所に”東山さんってこういう人なんだ!”と発見することも多く、正直、反ヘイト本は、煽りすぎで、もちろん、東山さんの水平な視線の真っ当さが清々しいことは間違いないのだが、そこだけが注目されるのは、もったいない気がする。

 

東山さんというとクールでストイックなイメージがある。少年隊がデビューした頃も知っている年代だが、ジャニーズには全く興味がなかった私でも、歌番組での3人のピシッと揃ったダンスや、バク転を見ながら「ダンスのうまい本格派グループが出てきた」と思ったことを覚えている。その頃人気だったマッチや トシちゃん、あるいはしぶがき隊の持ついかにもアイドルな雰囲気とは違う印象だったように記憶している。そして、アラフィフとなった今もその頃のイメー ジのままだ。

 

でも、ストイックは一日にしてならず。それを保つために、血のにじむような努力を重ねてきていること、芸能界で出会ったたくさんの人たちの言葉に真摯に耳を傾け、学んできたことなど、東山さんの真面目な姿が綴られていた。

 

そして、アイドルという職業が男の一生の仕事になったことを改めて思った。1980年代頃まで、男性アイドルは小中学生、つまりは少女たちのものだったように記憶している。当のアイドルも10代後半から20代前半でピークを迎え、大人の歌手や俳優になっていくか、いつの間にか表舞台からいなくなり、気づくとまた新しいアイドルが供給されていた。今のようにアラフォーになっ ても歌い踊り、大人をも満足させるクオリティのアイドルなんてちょっと考えにくかった。その先駆者は間違いなくSMAPだろうけれど、その先に歌い踊ることに情熱を注ぎ、それまでにはなかった大人のアイドルとしての道を拓いてきた少年隊がいたのか!と気づいた。

 

そのアイドルを供給し続けるジャニー喜多川さんとのエピソードもまた興味深いものだった。驚いたことに、東山さんは渋谷の交差点に立っていたところを、車の中にいたジャニーさんが目に留め「ちょっと」とスカウトしたのだという。なんという眼力!

 

ジャニーズ事務所は、ジャニーさんの個人商店のようなものと思っているのだが、そこに並べるアイドルという商品を見つけ出し並べるまでが社長の仕事。そこからどれだけ輝くかは、個々の努力や、時代のニーズによるところが大きいのだろう。でも、その努力をジャニー社長のやさしさと厳しさが支えているから、頑張れるのだろうと本を読みながら思った。

 

ちょうど元旦に、蜷川幸雄のクロスオーバートーク - NHKというラジオ番組でジャニー喜多川さんと蜷川幸雄さんの対談が行われていたのを聞いていたのだが、そこで、語られていた 「芸能界での成功の秘訣は、真面目であること」「 アイドル作りは人間作り。どの子だって人間の美しさがある。そりゃ、そうだよ、人間の子だもの」といった言葉と合わせても、子どもの可能性を信じて、育ててきた懐の深い人柄が伝わってきて、ジャニーズというショービジネスを一代で築き上げた人の凄さを思った。

 

他にも1970年代の日本の風景に共感したり、1980年代にトップアイドルだったトシちゃんやマッチの仕事に向かう真摯な姿勢にへぇ~と驚かされたり(良いイメージがなかったの)いろいろな読み方のできる本だと思う。文章も簡潔で、読みやすい構成なので、どこかで見かけたら手にとってみることをオススメする。そして、断じて反ヘイトだけの内容ではないのだよと最後に添えておきたい。

 

カワサキ・キッド

カワサキ・キッド